「こわれがめ」とは

森鴎外や太宰治も愛読したとかしないとか、ドイツ孤高の天才作家、ハインリヒ・フォン・クライスト。生涯を通じてほぼ悲劇しか書かなかったといわれる彼が1806年に書いた唯一の喜劇がこの「こわれがめ」。初演はかの有名なゲーテが演出、でも(そのせいで)酷評を浴び大失敗。クライストはそれ以後も特別評価されることなく、1811年に人妻とピストル自殺を遂げこの世を去る。今では、ドイツ三大喜劇と称される本作は、いわゆる‘古典’らしからぬ、こむずかしいこと一切なし。舞台はオランダ、ユトレヒト近郊のフィズム村。どうしようもない好色男の村長が、自分が起こしたセクハラ事件の犯人を別にしたてあげて自分で裁こうとする、という本当にどうしようもないグダグダの法廷劇。

そんな‘壊れた’喜劇をえっちらおっちら読みすすめ、わからないところは勝手に解釈、そもそもドイツ語読めないし、独断と偏見で、でもできうる限り忠実に、不器用に再構成する、粉々の喜劇。喜劇は必ず誰かにとっての悲劇。誰かが悪くて、誰かがいいやつだ、なんて言えないんだけれど、みんなせーので幸せになるのはずいぶん難しいことだよ。少しくらい、後味悪くていいんじゃない?
演出 中村大地

登場人物

ヴァルター 司法顧問官
アーダム 村の裁判官・村長を兼ねる
リヒト 書記官
マルテ・ルル 村の女
エーフェ その娘
ファイト・テュンペル 農民
ループレヒト その息子
ブリギッテ ループレヒト叔母
従僕ハンフリーデ(廷吏)、リーゼマルガレーテ(女中)、その他